はじめに
アメリカのダンスカンパニーには週1、2回のリハーサルで学生ビザでも入れる代わりに給料が少ないカンパニーから週40時間働いて給料も週休制のフルタイムと言われるカンパニーがあります。
ではこれらのカンパニーがどのような仕組みで運営されているのかを解説していきます。
カンパニーの資金源
アメリカには日本ではめずらしいフルタイムのダンスカンパニーというものがありますが、実はアメリカにはこのようなダンスというアートに対する援助はなく、日本と同じ環境なんです。
ではどこからその援助金がでるのかというと、一部の企業や富裕層にあたる個人が援助金を出してくれる文化があります。
税金対策の仕組み
ほとんどのダンスカンパニーはNPO(非営利団体)として登録されており、このようなカンパニーに援助金を寄付すると、そのぶんの税金が免除されます。
そして多くのアメリカ人はこのように趣味でダンス、音楽、演劇などを楽しむという文化があるため、税金でお金を取られるより自分の趣味にお金を払うほうが良いに決まっています。
そして援助金を出したスポンサーはカンパニーから特別待遇で公演に招待され、公開リハーサルや公演後のパーティーでダンサーたちと交流できるなどがあり、さらにスポンサーたちからはこのダンサーたちを自分が育てているという感覚になるでしょうから、その活動を見守るのも楽しいものでしょう。
実は日本にもあるこの制度
このように寄付金の制度は実は日本にもあるんです。
文化的にダンスにお金を払うという文化がない日本ではダンスカンパニーを育てている企業はないようですが、地元の交響楽団に援助金を出している企業はあります。
その交響楽団の公演で年1回、スポンサーの企業の社長が指揮者を行うというイベントがあるそうです。
音楽鑑賞が趣味であれば、これは楽しそうですね。
他にもこのような援助のケースは日本では歌舞伎や宝塚などにあるようです。
フルタイムダンサーの生活
このようなフルタイムのダンスカンパニー、そのスケジュールは大体朝8−9時ぐらいから出勤、まず朝のカンパニークラス、主にバレエがあり、その後にコンテンポラリークラスもあるところもあります。
その後はひたすらリハーサル。
私は過去2つフルタイムのカンパニーで働きました。
ツアーカンパニー
1つはコマーシャル系のショーをするカンパニーで月ー金でリハーサル、朝9時から夜6時までで途中に1時間昼休みがあり、給料は時給12ドル+昼ご飯代20ドルが支給されます。
このリハーサルを2、3週間行なってショーを作り、ショーができたらそれをラスベガスやアフリカの富裕層のパーティーなどに持って行き、ツアー中は移動日で日当80ドル、ショーがある日は日当120ドルでした。
ツアー中の食事代、ホテル代もすべてでるので2週間もツアーして帰って来ればかなり貯金がたまりますが、その後1ヶ月ショーがないこともあり、その間リハーサルもなく、収入がありません。
結局貯金が生活費に消えるので生活は安定するわけではありませんでした。
このオフの期間では教えの仕事を見つける、またはレストランでバイトするなど様々な方法でみんな生活していました。
地元定着型のカンパニー
もう1つはバレエ系のカンパニーで、火ー日でリハーサルの月曜休み。
ダンス学校も持っており、リハーサル後ダンサーはこのダンス学校で教えることができます。
このダンス学校にも生徒のカンパニーがあり、そこに入ればダンスカンパニーと一緒に公演に出たりもできます。
その合同練習のために土日もリハーサルがあり、土日はダンス学校の子供達とリハーサルするわけです。
大体3週間でショーを作って2週間公演、木金土日が公演日で金土日は2回公演、つまり1つのショーで12−14回公演していました。
シアターもダンスカンパニーがリハーサルする施設の中に劇場を持っていて、そこで行う場合ともっと大掛かりな舞台装置を使う場合であれば大学の劇場などを借りて公演していました。
とはいえこれも公演が1回終われば2週間から1ヶ月休みになり、オフの間の仕事が必要になります。
つまりアメリカのフルタイムのダンスカンパニーはフルタイムと言いながらもオフシーズンがかなりあり、本当にフルタイムの仕事のシステムがあるダンスカンパニーはほぼないと言えます。
お金の話はどんどんしましょう
給料は人それぞれ違い、バレエ学校や大学をでていたり、これまでの経歴がいいなど給料が高くなります。
また外国人、特に日本人ですと給料安くても文句言わずに働くと思われていて、なめられてるのでふっかけられることもありました。
相場は小さいフルタイムカンパニーでも、これだけの時間拘束されれば週400ドルはもらわないといけないので、それより安く言われた場合は堂々と文句を言いましょう。
ちなみにトップレベルのコンテンポラリーカンパニーやニューヨークシティバレエ、アメリカンバレエの群舞のダンサーで週700〜800ドルほどです。
日本はお金の話はしないという文化がありますが、アメリカでそれをすると損しかしません。
他のカンパニーダンサーとも給料をいくらもらってるかなど全然聞くべきです、でないといつのまにか自分だけ安い給料でこき使われているということが起きていても気がつきませんから。
大きいダンスカンパニーのディレクターというのはビジネスのことで頭がいっぱいの人が多く、ダンサーも道具と考える人が多いです。
安い給料でこき使われるような扱いを受けないように気をつけましょう。
小さいカンパニーの運営方法
ではこのようなスポンサーのいない小さいカンパニーはどのように運営されているのか?
これはディレクターのポケットマネーです。
なのでディレクター本人は普段は普通のITや法律系の給料の良い会社で働く、または援助してくれる旦那のいる女性振付家などが多いです。
このような良い仕事がなく、ダンスの教えの給料で頑張っている人もいます。
このようなカンパニーはリハーサル代がでない、パフォーマンス代も1回50ドルほど、ということが多いです。
しかしディレクターからすればダンサーが6人いれば1回のショーで300ドル飛ぶわけですから、頑張って払ってくれてるんだなとわかります。
それ以外にリハーサルの場所代、自分で公演を行えば劇場代、広告費などもかかり劇場を満席にしても赤字だというのも納得です。
このようなカンパニーで頑張ってスポンサーがつけば一気に大きくなったりもするわけで、その辺は振付家としては夢がありますね。
まとめ
このようにアメリカもダンスやアートの最先端のイメージがありますが、実はアートに対する援助は日本と変わりません。
これがヨーロッパの方になると国の援助があり、ダンサーの給料はもっと良く、踊りで生活する環境としてはヨーロッパの方がいいと言えます。
しかしそれでもアメリカに来るヨーロッパ人は多く、彼らからするとアメリカの方が踊りやすいと言います。
この辺はヨーロッパで生活をしたことのない私にはわかりませんが、ダンサーがやりたいことととお金を稼げる踊りというのはやはりずれて来るのでしょう。
稼げることよりも踊ることを人生の生きがいとする人たちは稼げなくても自分の踊りができる環境に移ってきます。
実は多くのダンサーがフルタイムのダンスカンパニーをやめる理由もこれで、フルタイムのダンスカンパニーにいる限り、振付家の振りを踊るだけで、自分の踊りはできません。
やりたくない踊りをやってお金を稼ぐというのは感覚としてはバイトしてるのと同じですから。
やはり大切なことはお金を稼げる環境に心を持っていかれるのではなく、自分が何をしたいのかをはっきりさせて生きて行くことでしょう。
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