はじめに
ここまでアーティストワークビザを取得するための体験記を書いてきました。
ではここからはアーティストビザ取得後、フルタイムのダンスカンパニーを目指していた時の体験記です。
練習の仕方を変える
フルタイムのダンスカンパニーといっても様々な踊り方があり、ダンサーもあるカンパニーからは非常に評価されたけど、別のところでは1時審査で落とされたということはよくある話です。
どこのカンパニーでも評価されるダンサーになるというのは不可能でしょう。
なぜならディレクターによってダンスのうまいの基準というのは全然違うからです。
アメリカの伝統的なカンパニー
ただアメリカの場合は伝統的なモダンダンスがあり、その教育が大学教育にまで浸透していますので、そのテクニックができることを良いダンサーの基準としているダンスカンパニーが多数あります。
アメリカでフルタイムのカンパニーに入るためにはその基準に沿ったトレーニングをすることが一番でしょう。
しかし、この方法は大学に通った人が圧倒的に有利であり、成人してからダンス留学した人には、そっちの方向性にトレーニングし直すのは大変です。
留学したばかりの日本人によくある話ですが、評価されているダンサーの何がうまいのかわかりません。
私たちが日本で学んできた踊りのうまいの基準と違うからです。
大学に行けばそのうまいの基準の考え方や価値観を教え込まれ、それをトレーニングしていくわけです。
その知識がないと何がうまいのかわからないままで、そんな踊りをうまく踊るなんてことは不可能でしょう。
しかしその踊りをするとしても、そのような踊り方のルールが作られた踊りを本当に自分が好きかもよく考えてみる必要があると思います。
仕事にするためにやりたくない踊りをする、ではダンサーとしての人生に意味がありません。
個性的なダンサーを好むカンパニー
アメリカの伝統の踊りというルールに縛られず、それ以外の面白いダンスの可能性を模索しているカンパニーというのもあります。
実はこれはニューヨークなどの東海岸よりカリフォルニアの西海岸の方が多いです。
私が最終オーディションまで残ったカンパニーも多くは西海岸でした。
フルタイムカンパニーのオーディション
ではこの西海岸のオーディションで私が最終まで残ったオーディションの1つ、Diavolo Dance Theaterのオーディションの実体験です。
このカンパニーはカリフォルニアがベースですが、東海岸までオーディションに来ることもあります。
このカンパニーのディレクターはシルク・ド・ソレイユのKAを振り付けた人で、特殊技能を持つダンサーを好みます。
私は自分の踊りとしてバレエ、コンテンポラリーダンスの流れにブレイクダンスのテクニックを混ぜる動きを研究していたので自分の個性を生かせる良いカンパニーでした。
審査内容
まず1次審査は普通のモダン・ジャズ系の振り付け、バレエなどの踊りの基礎があること、振り付けを覚える能力があることを見る審査です。
サーカストレーニングだけ、またはストリートダンスしかやってない人はここで落ちていきました。
2次審査は徹底的なフロアテクニック、これはこのカンパニーの特徴的な動きについてこれるかを見る審査です。
普段教科書通りのバレエやモダンのトレーニングだけをしているダンサーはこのような崩した動きがなかなかできず、半分以上がここで脱落していきました。
3次審査は体力測定です。
腕立て何回、棒を掴んで足上げ腹筋何回、逆立ちして腕立て何回、倒立歩行1往復などです。
これもブレイクダンスをやっている私は倒立歩行1往復など楽勝でした。
一番苦労したのは逆立ちの腕立てで、これは腕を曲げて頭のてっぺんを地面につき、そこからあげないと1回とカウントしてくれません。
私は10回ぐらいやったつもりが5回しかカウントされていませんでした。
しかしここは0回の人が続出し、この審査ではダンスは踊れるけど体を鍛えるトレーニングをしてない人が落ちていきました。
4次審査は一番面白かったです。
即興で踊ることになんらかのアクロバットを入れるというものでした。
つまりなんらかの技を持ってないとアウトなんですね。
これはブレイクダンスをやっている自分には一番の見せ所で踊りの流れからバク宙やスピン系の技を見せて、終わった瞬間にカンパニーのダンサーが「あなた、この審査絶対大丈夫だよ」と言ってくれました。
自分の育ててきた踊りを見せて評価される、ダンサーとしてこれほど嬉しいことはありません。
最終審査では残り10人になっていました。
この審査は女の子が3メートルの高さから飛び降り、男三人でそれを受け止めるというものです。
男三人の周りにはカンパニーの人たちが補助していて、事故のないよう注意が払われています。
度胸試しの審査ですが、これは女の子の方が圧倒的に怖いですよね。
しかしここまで残って今更飛ばない、という人もおらず、この審査では脱落者は一人もでませんでした。
オーディションから得るもの
こうして私は最後まで残ることができました。
このあと簡単な面接があって、そこでビザのことも聞かれましたが、アーティストビザを取得していたので何も問題ないということになりました。
このようにビザのことを聞かれるのは本当に最後まで受かってからなので、ビザがなくても力試しでオーディションを受けるのは全然問題ないことだと思います。
ビザがないことを理由にオーディションを受けないという日本人もたくさん見てきましたが、そういうビザの文句はオーディションで最後まで残ってから言え、と言いたくなります。
オーディションは実際体験することで自分に何が足りないのか、どんな見せ方をしたら評価されるかなど様々なことを学ぶことができます。
このように経験を積んで、そこから練習方法を考えてトレーニングを積み重ねることでオーディションに残る実力がついていくものです。
ビザが取れるまでオーディションを受けずにいる、というのは勉強する時間を無駄にしているだけです。
受かっても雇われるわけではない
しかしこのように最終まで残ってもカンパニーに空きがでなければ雇われません。
この時もカンパニーメンバーで誰かがやめれば最終候補者の中から誰か雇われたのですが、メンバーは誰もやめず、候補者からは誰も雇われませんでした。
まとめ
このようにフルタイムのダンスカンパニーというのはディレクターの好みが自分の踊りと重なる必要があり、さらにカンパニーに空きがでないと雇われることはできません。
ダンスがうまければ仕事が手にはいるというわけではないんですね。
このようなところで雇われるにはダンサーもただいろんなクラスを受けるだけでなく、自分がどんなタイプのダンサーでどんなダンスカンパニーに評価されやすいかを見極め、方向性を明らかにして練習していかないといけません。
そしてこのような自分にあったカンパニーに目をつけておき、ワークショップを受けに行くなどして、チャンスがあれば声がかかる環境を常に作っておく必要があります。
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